HOME カン修復術(Kang Repair)
カン修復術(Kang repair)は、人口の網であるメッシュを全く用いない鼠径ヘルニア切開手術法です。カン修復術(Kang repair)の皮膚の切り傷の長さは約3-3.5cm程度で、鼠径部の少し上のところの皮膚を横に切ります。従来の切開法では、斜めに皮膚を切る手術が多かったのですが、このような切り方は美容上の大きな問題が生じます。
従来の切開法とカン修復術(Kang repair)には、大きな違いがあります。従来法は、外(間接)鼠径ヘルニア(indirect inguinal hernia)と内(直接)鼠径ヘルニア(direct inguinal hernia)を区別せず、同じ方法で手術しました。これに対し、カン修復術(Kang repair)は、外(間接)鼠径ヘルニア (indirect inguinal hernia)と内(直接)鼠径ヘルニア(direct inguinal hernia)を、それぞれ違う方法で手術します。すなわち、カン修復術は、鼠径ヘルニアの種類に合わせた手術を行います。
鼠径ヘルニアには、間接鼠径ヘルニアと直接鼠径ヘルニアの2種類があります。外(間接)鼠径ヘルニアか、内(直接)鼠径ヘルニアかの区別は、鼠径部の真ん中を斜めに通る下腹壁動静脈(inferior epigastric vessel)で判断します。この血管を基準にして鼠径部は、鼠径部のやや外側の上部分と、鼠径部の恥骨寄りの内側の下部分に分けられ、外側の上部分にある深鼠径輪 (deep inguinal ring)から出でくるヘルニアを外(間接)鼠径ヘルニアといいます。そして、内側の下部分のヘッセルバッハ三角(Hesselbach triangle)の弱まった横筋筋膜(transversalis fascia)に発症するヘルニアを内(直接)鼠径ヘルニアといいます。
このように外(間接)鼠径ヘルニアと内(直接)鼠径ヘルニアは、起きる場所が全く違うにもかかわらず、従来法のほとんどは、二つのヘルニアを区別せず同じ方法で手術していました。すなわち、内(直接)鼠径ヘルニアが起きるヘッセルバッハ三角(Hesselbach triangle)の周辺を主に修復する手術法で、外(間接)鼠径ヘルニアまで無理に手術してきたわけです。
もちろん、外(間接)鼠径ヘルニアの場合は、ヘッセルバッハ三角 (Hesselbach triangle)の上の部分まで引っ張って縫い縮めることによって、外側の上部分にある深鼠径輪を外から引き締める試みをしましたが、この方法では深鼠径輪から再びヘルニアが生じることを、完全に防ぐには限界があったと考えられます
一方、従来法の高い再発率の理由としては、周辺の筋肉を引っ張り縫合することによって生じた筋肉の張力(tension)、すなわち縫い縮められた筋肉が元に戻ろうとする力が原因だと考えられていました。高い再発率の原因としては、このような張力の可能性も排除できませんが、当院では筋肉の張力よりも、外(間接)鼠径ヘルニアと内(直接)鼠径ヘルニアそれぞれに合わせた手術を行っていなかったことにより大きな原因があるものだと考えております。
従って、カン修復術(Kang repair)は、外(間接)鼠径ヘルニアと内(直接)鼠径ヘルニアそれぞれに最適化された方法で手術することを原則としています。
ヘルニア嚢とは、断裂していた腹壁筋の隙間から腹膜が抜け出ているものをいう。腹壁筋の隙間から腹膜が、まるで風船のように膨らんで抜け出ているのをヘルニア嚢だと考えてよい。通常、外(間接)鼠径ヘルニアの手術の際には、周りの組織からこのヘルニア嚢を取って腹膜とつながっている所で結んだ後、ヘルニア嚢を形成した部分は切り取る。その後、結ばれたまま切除された部分は、筋肉の隙間の中の深くに入れ込まなければならない。私たちは、長い手術の経験を通じて、ヘルニアの再発を防ぐためには、切除した部分を深くに入れ込む過程が非常に重要であることに気づいた。しかし、残念ながら、従来法では、この過程にあまり注意を払わなかった。
このようにヘルニア嚢を確実に処理する過程は、内(直接)鼠径ヘルニア手術でも同じく重要であるため、カン修復術 (Kang repair)ではこの過程を徹底的に行っている。しかし、切開手術であろうが、腹腔鏡手術であろうが、これまでの内(直接)鼠径ヘルニア手術では、ヘルニア嚢を処理する過程が省かれるケースがしばしばあったほど、この過程は大きく注目されてこなかった。これは再発の危険性を非常に高める要因であると考えられる。従って、ヘルニア嚢を確実に処理し、筋肉の隙間の中の深くに入れることは、カン修復術 (Kang repair)の重要な特徴の一つであると言える。
カン修復術(Kang repair)では、外(間接)鼠径ヘルニアの場合、ヘルニア嚢を処理した後、穴が開いている深鼠径輪を正確に確認し、この隙間だけを直接縫合して塞ぐ。従来の切開法が、外(間接)鼠径ヘルニアの場合にも一律にヘッセルバッハ三角 (Hesselbach triangle)まで一緒に縫ったことと比べると、カン修復術の手術範囲は画期的に狭くなった。 深鼠径輪の隙間を縫うという点では、過去に紹介されたマーシー法(Marcy operation)と似ている手術法であるが、カン修復術は、縫う場所と縫い方においては全く違う手術法であり、再発と合併症の予防に最適化された手術法である。また、マーシー法とは違い、精巣挙筋(cremaster muscle)を最大限保存することができる。深鼠径輪(deep inguinal ring)は、精管や、精巣動脈や精巣静脈、リンパ管、神経などでできている精索 (spermatic cord)が通る通路であるため、精索(spermatic cord)の中の組織に損傷を与えないことと、深鼠径輪をしっかり塞ぐことが、この手術で最も重要なポイントである。
カン修復術(Kang repair)による内(直接)鼠径ヘルニア手術は、ヘルニア嚢を処理した後、弱まって断裂した横筋筋膜(transversalis fascia)の隙間を注意深く直接縫合して塞ぐ。横筋筋膜は、比較的に薄い筋膜であるため、横筋筋膜を縫った後は外層を、結合腱(conjoint tendon)と鼡径靱帯(inguinal ligament)を引っ張り上げ縫合し補強する。 カン修復術(Kang repair)と従来の切開法との違いは、一つ目,従来法が鼠径部全体を手術したのに対し、カン修復術(Kang repair)はヘッセルバッハ三角部分のみ手術する。すなわち、カン修復術の手術範囲は非常に狭い。二つ目、カン修復術は、横筋筋膜(transversalis fascia)の修復を最優先にして手術を行う。これに対し、他のほとんどの手術では横筋筋膜の修復を全く行わなかったり、行ったとしても重点的にはしなかった。 結論として、カン修復術(Kang repair)は手術範囲を最小限にし、ヘルニア穴を徹底的に直接縫合する手術法であると言える。
上記の説明だけでも、カン修復術(Kang repair)は、これまでのあらゆる鼠径ヘルニア手術法の中で、最も侵襲性が低い手術であることが十分わかる。もう少し説明したい。
まず、手術創の大きさが平均3.5cm程度に過ぎないため、10cmに至る従来のほとんどの切開手術より創部が小さい。手術創が小さく済む理由は、外(間接)鼠径ヘルニアと、内(直接)鼠径ヘルニアを、それぞれ違う方法で手術するためであり、またプラスチック素材の人工の網であるメッシュ(mesh)などの異物を体内に入れ込む必要がないためである。 腹腔鏡鼠径ヘルニア手術は切開する部分は小さいが、切開する部分が3か所になるため、その長さをすべて合わせると結局3cm近くになる。従って、創部の大きさにおいてカン修復術(Kang repair)は最小侵襲手術と言える。
手術の侵襲性(degree of invasiveness)に最も大きな影響を及ぼす要素は、手術範囲と言える。手術範囲が広ければ広いほど、周りの組織が損傷を受ける可能性が高まるからである。カン修復術(Kang repair)では 4x4cm程度の範囲で十分手術を行うことができる。 従来の切開法は、通常10cm程度皮膚を切開し、鼠径ヘルニアの種類と関係なく同じ方法で鼠径部全体を手術したため、鼠径ヘルニアの種類に合わせるカン修復術(Kang repair)に比べれば、手術範囲は非常に広かった。また、メッシュ(プラスチックの人工の網)を用いる手術でも、約5x10cmサイズのメッシュ(mesh)を使用して鼠径部全体を覆うため、手術範囲の大きさは従来法とあまり変わらない。 メッシュを使う腹腔鏡ヘルニア手術の場合は、創部が小さく済むが、体内に最小限14x10cmサイズのメッシュ(mesh)を入れて鼠径部の腹壁全体を覆う。そのため、手術範囲は体内に入れるメッシュより広くなってしまう。 以上のように手術範囲においては、カン修復術(Kang repair)が最も小さいため、周りの組織の損傷の恐れが最も少ない最小侵襲手術は、当然カン修復術だと言える。
手術時間は、手術が始まって終わるまでかかる時間のことである。すなわち、手術時間が長いということは、手術過程が複雑で手術の際にやらなければならないことが多いことを意味する。そして手術範囲が広ければ、手術時間も当然増えてしまう。 このように手術時間が長いということは、手術する部分の組織が損傷する可能性もその分高くなり、麻酔時間もともに長くなることを意味する。特に局所麻酔と違って、全身麻酔法を用いてヘルニア手術をする場合は、手術時間が長くなれば手術の危険性も高くなることを意味する。 各手術法の平均手術時間は次の通りである。 腹腔鏡ヘルニア手術: 1時間以上, メッシュプラグ法/従来法: 40分以上, カン修復術(Kang repair): 20分 結論として手術時間においてもカン修復術(Kang repair)は、侵襲性が最も低い鼠径ヘルニア手術法であると言える。
以上のようにカン修復術(Kang repair)は、手術創の大きさ、手術範囲、手術時間などあらゆる面において最も侵襲性が低い鼠径ヘルニア手術法である。侵襲性が最も低いということは、合併症の危険性も最も低いという意味であり、手術後の回復も最も早いということを意味する。
カン修復術(Kang repair)は、例外なく局所麻酔法で行われる。これは、手術範囲が狭く、手術時間が短いため可能なことである。腹腔鏡ヘルニア手術は、ほとんど例外なく全身麻酔で行われる。また、皮膚を切開する従来法やメッシュプラグ法(プラスチック素材の人口の網を用いる手術法)では、患者の状態や医師の選好によって全身麻酔、腰椎麻酔、局所麻酔法のいずれかが使われる。
局所麻酔は、現在使われている麻酔の中で最も安全性の高い麻酔法である。しかし、局所麻酔薬であっても安全に使用できる容量には制限がある。多量の局所麻酔薬が使われる場合、血管に吸収される局所麻酔薬の濃度が高すぎて、心臓の活動を抑制するなどの深刻な副作用をきたす危険性があるためである。そのため、手術範囲が大きいメッシュプラグ法や従来の切開法では、局所麻酔より全身麻酔、もしくは腰椎麻酔で行なわれることが多い。
局所麻酔薬として広く使われるリドカイン(lidocaine)は、成人の最大投与量が4.5mg/kg、もしくは総量 300mgを超えてはならない。すなわち、50kgの成人の場合、1% lidocaineを最大22.5ccまで、60kgの成人には1% lidocaineを27ccまで投与できる。体重が67kg以上の場合、最大30ccまで使用できる。ただ、この量で局所麻酔をかけると、5x5cmを超える手術範囲では麻酔の効果を十分に期待できない
しかし、手術範囲が4x4cm程度に過ぎないカン修復術(Kang repair)は、リドカインの容量範囲内で痛みを感じることなく手術を受けられるヘルニア手術である。このように安全で簡単な局所麻酔であるが、誰もが注射を打つ時の痛みは怖いものである。このような方々のために当院では、静脈内鎮静法(iv sedative)を用い、眠った状態で局所麻酔薬を注入するので注射の痛みは全く感じることなく手術を受けることができる。
メッシュプラグ法 | Desarda 法 | 従来の切開法 (modified Bassini repair など) | バッシーニ・ショルダイス法(Bassini-Shouldice repair) | カン修復術(Kang repair) | ||
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内(直接)鼠径ヘルニア手術 | 外(間接)鼠径ヘルニア手術 | |||||
メッシュ | Yes | No | No | No | No | No |
ヘルニア穴 | 無処置 | 部分縫合 | 無処置 | 完全縫合 | 完全縫合 | 完全縫合 |
主なバリア | メッシュ・シート、もしくは3Dメッシュ・シート | 外腹斜筋腱膜 | 引っ張られた筋肉組織 (ほとんどの場合、結合筋肉と鼠径靭帯を引っ張って縫合) | 鼠径部全長の縫合した横筋筋膜 | ヘッセルバッハ三角の縫合した横筋筋膜 | 縫合した深鼠径輪 |
補助バリア | 無 | タバコ嚢縫合で縫合した横筋筋膜 | 無 | 追加で縫合した結合筋肉と鼠径靭帯 (鼠径部全体、すなわち深鼠径輪とヘッセルバッハ三角全体) | 追加で縫合した結合筋肉と鼠径靭帯 (ヘッセルバッハ三角のみ) | 無 |
手術範囲 | 鼠径部全体(すなわち深鼠径輪とヘッセルバッハ三角全体) | 鼠径部全体(すなわち深鼠径輪とヘッセルバッハ三角全体) | 鼠径部全体(すなわち深鼠径輪とヘッセルバッハ三角全体) | 鼠径部全体(すなわち深鼠径輪とヘッセルバッハ三角全体) | ヘッセルバッハ三角のみ | 深鼠径輪のみ |
ヘルニア種類に合わせた手術 | x | x | x | x | o | o |
手術後、張力の発生 | なし | 軽度 | 強 | 強 | 軽度 | ごくわずか |
手術時間 | >60分 | 40分 | >40分 | >40分 | 30分 | 20分 |
手術中の出血 | 中~多 | 少 | 中 | 中 | 微量 | 微量 |
麻酔の種類 | 全身麻酔 | 腰椎麻酔/局所麻酔 | ほとんどの場合全身麻酔/腰椎麻酔 | ほとんどの場合全身麻酔/腰椎麻酔 | 局所麻酔 | 局所麻酔 |
再発率 | 5-10% | メッシュを使うヘルニア手術と類似 | 10-30% | 2-3% | <0.5% | <0.5% |
合併症の発生率 | 高い | 高い | 多様 | 多様 | 非常に低い | 非常に低い |
特殊な手術用接着剤を創部に使用するため、手術創の治療や抜糸に通院は不要
メッシュは、化学繊維の一種で作られた網です。1980年代末から本格的にヘルニア手術に取り入れ始めました。最近多く行われているヘルニア手術は、このメッシュを用いる手術です。切開手術や腹腔鏡手術でヘルニアを起こした部分の内側や外側をメッシュで塞ぐ手術です。
メッシュが取り入れられるまでは、自己組織を利用するヘルニア手術法が多く行われました。これは、ヘルニア穴の外側にある筋肉を引っ張って縫う手術です。筋肉を一緒に縫うことで、ヘルニア穴の外側を塞ぎます。 しかし、この手術は、再発率が10-30%に至るほど高いものでした。高い再発率の原因としては、自己組織を使うことによって生じる筋肉の張力のためと考えられていました。
離れている筋肉を引っ張って縫うと、元の位置に戻ろうとする力が生まれますが、これを張力(tension)といいます。結局、この張力がある程度を超えると、縫合した筋肉が再び断裂し、隙間ができてしまします。これが再発の原因だと考えられています。張力が生じることを防ぐため筋肉を引っ張って縫合する方法の代わりに、丈夫な人口の網で塞ぐ方法が登場するようになりました。医師たちは、これで再発を防止できると考えました。
10-30%に及んだ、自己組織を利用するヘルニア手術の再発率は、メッシュをも用いるようになってからは2-5%程度まで抑えられました。所期の目的は一定程度達成できました。しかし、完璧な結果ではありません。2-5%という再発率も、低くはないからです。さらに、最近ではメッシュを使うヘルニア手術の再発率が、実際には10%以上であるという報告も相次いで発表されています。
(Niebuhr H and Köckerling F. Surgical risk factors for recurrence in inguinal hernia repair – a review of the literature. Innov Surg Scl 2017;2(2):53-59.)
しかし、メッシュを使用するヘルニア手術による本当の問題は、他にあります。メッシュを用いることで再発は抑えられましたが、これまでにはなかった後遺症が新たに発生しました。
メッシュを使うヘルニア手術後最も多い後遺症は、慢性的なひどい痛みです。少なくとも患者の10%が手術後これに苦しんでいます。この中には、日常生活が困難になるほどの激しい痛みを訴える患者さんも少なくありません。また、異物であるメッシュは、細菌感染を引き起こしやすくもあります。そのため手術後、時間がたってから手術創に膿の塊ができてしまうこともあります。稀にですが、腸や膀胱に穴が開いてしまう膀胱穿孔が発生する場合もあります。他にも、神経の損傷、異物感, アレルギー反応、圧痛など様々な後遺症が報告されています。その結果、アメリカなど各国では、ヘルニア手術の際に埋め込まれたメッシュの副作用の問題により患者による集団訴訟が相次いでいます。 http://www.drugwatch.com/hernia-mesh/
後遺症が深刻な場合は、メッシュを摘出する手術を受けなければなりません。しかし、摘出手術は非常に難しいため、周りの神経や血管、筋肉などが損傷する可能性があります。さらに、腹腔鏡でメッシュを埋め込んだ場合は、除去ができない場合もあります。
メッシュを使うヘルニア手術は、再発よりもさらに怖い後遺症をもたらしました。再発時には、もう一度手術すれば済むことです。しかし、後遺症が発生してしまうと、苦痛が大きくて、治療自体が難しいことも少なくありません。すなわち、メッシュを使う手術は長所より短所の方が多い手術なのです。
Someone asking for advice with regards to mesh pain
メッシュによる合併症を防ぐ最善の方法は何でしょうか。それは、メッシュを使わないこと。これは当たり前の常識的なことです。それでは、再び従来の切開法である自己組織を利用するヘルニア手術に戻るべきでしょうか。それでは、高い再発率が非常に心配です。すなわち、「メッシュを使わなくても再発が抑えられる」新しくて画期的な手術法でなければなりません。
問題を解決する鍵は、ヘルニア穴を直接に縫合することです。 上記の説明とおり、丈夫なメッシュを用いたことで張力が発生しないにもかかわらず、いまだに再発は少なくありません。 その理由は何でしょうか。
それは、メッシュを使用する手術法がヘルニア穴を放置したまま、ただメッシュで穴の内側と外側を塞ぐだけの手術であるからです。 ヘルニア穴を塞がなければ、いつでも再び臓器が出てくる危険性が残っています。 その結果、丈夫なメッシュを用いたにもかかわらず、再発を完全に防ぐことができていないのです。 10-30%に及ぶ自己組織を利用するヘルニア手術の高い再発率も同様です。
ヘルニアの再発の原因は張力にもありますが、実はヘルニア穴を直接縫合しなかったことにもあります。 ヘルニアは腹壁の筋肉に開いた穴の中から腸が飛び出てくる病気です。 したがってこの穴さえ確実に塞げば、完治は可能だと考えられます。これは非常に常識的な結論です。
しかし、不思議なことに、従来の自己組織を使用するヘルニア手術は、このような常識的な考え方を軽視し続けてきました。 また、メッシュを使う最近のヘルニア手術も同じです。
これからは常識的な考え方に基づいて、簡単ではありませんが、ヘルニア穴を探し、「直接縫合」しなければなりません。そうすれば、再発とメッシュによる後遺症の両方を防ぐことができます。
幸いに、このような手術法はすでに2012年に当院で開発されました。「直接縫合」するカン修復術が、まさにその手術法です。この方法は、精巧な手術を通じてヘルニア穴のみを「直接縫合」する新しい概念のヘルニア手術です。
ヘルニア穴は、元々繋がっていた組織の間にヘルニアが飛び出てくることによって隙間が開いてできたものです。元々繋がっていたので、穴を縫い縮めても張力は発生しません。元の状態に戻すものだからです。すなわち、ヘルニア穴のみを直接に縫合することによって、メッシュを用いず、張力も発生させない一石二鳥のヘルニア手術ができるようになったわけです。
ヘルニア穴のみを「直接縫合」するカン修復術(Kang repair)は、再発を画期的に抑えるとともに、メッシュによる後遺症の心配もなくすことができます。再発と後遺症を防ぐというまさに一石二鳥なわけです。これまで「直接縫合するカン修復術」(Kang repair)は、約6,000件行われ、再発率は0.5%未満です。そしてメッシュを用いるヘルニア手術の副作用は、世界的に広く知られています。
しかし、多くの医師はいまだにメッシュを用いるヘルニア手術を「最高の評価基準」(Gold Standard)として見なす状況が続いています。このような状況を目の前にし、悩む外国人の患者さんはたくさんいます。それで、メッシュの副作用と高い再発率を避ける方法はないかと一生懸命調べて、遠く韓国にある当院にまで訪れてくださっています。壁にぶつかっている鼠径ヘルニア手術のジレンマを一気に解決した方法が、「直接縫合するカン修復術」(Kang repair)だということがすぐわかるからです。